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『自由からの逃走』

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資本主義の発展以前、いわゆる中世社会を特徴付けるのは、個人的自由の欠如である。生まれた土地からの移動から服飾、モノの値段に至るまで、全て規則と義務とに人々は縛られていた。その反面、各人は確固とした社会的役割を有し、それによってのみ自分の存在を意識していた。このような没個性の段階における個人と社会との間に存在する関係をフロムは「第一次的絆」と呼ぶ。
 
このような中世の固定化された社会構造が資本主義の浸透によって崩壊した結果、人々は政治的・経済的な束縛からの自由を手に入れることができたが、それは同時にそれまで固定化されていた社会的地位を失うということを意味する。「すべてはみずからの努力にかかっており、伝統的な地位の安定にかかっているのではない(P68)」という状況は、それまで安定感と帰属感とを与えていた「第一次的絆」からの解放を人々にもたらした反面、世界に対してたった一人で立ち向かっていかなければならないという孤独を「個人」に与えることとなった。
 
さらには労働や購買の様式も変化した。それまで職人として親方や企業と具体的な関係で結ばれていた労働者は、大企業の中において多数の従業員の内の一人としてしかみられなくなった。百貨店などにおける顧客は、それまでの個人的な注意を払う対象から、単なる抽象的な買い手としての意味しか持たなくなった。俗に言う、「個人」の無意味化である。このような資本主義の傾向がますます「個人」の孤独を助長していく。
 
こうした孤独から逃れるためには、二つの道しかない。「積極的自由」を手にするか、社会的束縛から勝ち得たその自由を捨て去るかである。後者を選ぶということは、自分の外側にある権力や人、制度によりかかることで個人的自我と社会との間に生じた分裂を消滅させようと試みることである。著者は、第一次世界大戦敗北後の失望に溢れる社会状況の中で、個人の無意味感・無力感を感じていたドイツ民衆が、孤独に耐え切れずにファシズムの基盤を作ったと説明する。こうした例は、もちろんファシズムだけに当てはまるものではない。現代においても、怪しげな新興宗教に熱中してしまう人は多くいる。しかしながら、こうした逃避は決して成功しない。なぜなら、私達が一般に住んでいる社会において、この分裂、ひいては「個人」という概念は、既に確立されているのであって、その前提を無理やり無視して仮初めの「第二次的」な絆を求めたとしても、根本的な問題は解決しないからである。
 
このように考えると、組織に属することが全て自由からの逃走になるのではと思う人もいるだろう。しかしながら、「積極的自由」の下に自ら決断して組織に属するのであれば問題ないのである。「積極的自由」とは、「個人が独立した自我として存在しながら、しかも孤独ではなく、世界や他人や自然と結び合っているような」(P283)状態のことをいう。そして、この自由は「全的統一的なパースナリティの自発的な行為のうちに存する。」(P284)
 
著者の言う「自発的な行為」とは、「自分自身でものを考え、感じ、話すこと」(P288)ということなのだろう。ただ、これは非常に難しい。著者も別のところで述べている。
 
われわれの願望―そして同じくわれわれの思想や感情―が、どこまでわれわれ自身のものではなくて、外部からもたらされたものであるかを知ることには、特殊な困難が伴う。(P279)
 
現代の学校教育でも問題になっていることであるが、私達は社会の規範に沿うような人間になるよう教育を受ける。他人と違うことが悪とされ、「一般的」という鋳型に押し込めた人間を大量生産する学校ばかりが溢れかえった結果、自ら考えるという能力が欠如した人間ばかりが増えてしまった。こうした社会的な強制を幼少の頃から受けてきた私達に、いきなりどこまでが自分の思想で、どこまでが他人の思想かと問われても途方にくれてしまう。著者自身も、両者の区別における困難を克服する術について、具体的に説明してくれているわけでもない。
 
しかしながら、ここで悲観的になっても仕様が無い。何が自分の思想で何が他人の思想か、それは各々自分で考えろということなのだろう。なぜなら、世界に私という意識が一つしかない以上、その答えを知るのは私しかいないのだから。そうして自ら考えることが、私達が生きているということを世界に対して証明するのである。

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2009-11-27(Fri) 19:27| 学術書| トラックバック 0| コメント 0

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